竹内 直 (sax)
レーベル名 : Whisper
CDナンバー : WSP-13071
税込価格 : ¥2,500_
発売日 : 2013/ 7/ 7


フォト・グラフィック・サウンド、3分野3人のクリエイターが連携し て上質の音楽をサポートするプロジェクト”Whisper”が、こだわりと プライドをもって第一弾「Tow Voices」をお届けする。
人気実力とも高い評価を得るベテラン高樹レイと、その豊かな表現力 を多くの音楽家が認めるミュージシャンズ・ミュージシャン竹内直、 たった二人だけで創造する音楽世界は音表現への挑戦とも言える。
Whisper not / S.Uchiyama


ミュージック・ペンクラブ POPULAR Review
「Tow Voices」のレビューが掲載

ミュージック・ペンクラブ POPULAR Review


 2013-8-13「六本木STB139/TwoVoices 発売記念コンサート」

ライブレポート・池上比沙之

スタッフに楽屋口を教えてもらい、扉をくぐるとひとりの初老の男が外でタバコを吸っていた。
ぼくはそれが誰かすぐに分かったのだが、この人とは45年くらい会っていない。
こちらが誰かは分からないだろうなと思って、「コンチワ!」と言ったら、「あれ、ヒサシくん来たの!」それからしばらく、昨日も会っていたような気にさせられる不思議な会話が続いていたのだが、そこに高樹レイさんが楽屋から出てきた。  「あれ、おふたりは知り合いだったんだ!」
市川秀男さんが答えた。 「知り合いもなにも、かれはしょっちゅううちに来てたんだよ。ぼくがジョージさんのバンドやめたころね。
ずっと、ライブハウスとかスタジオとか来てくれてたのよ。現場を見に来てくれる、珍しい人だったんだ、昔から。 ぼくも変わらないけど、この人も全然変わってない」

この大ベテラン・ピアニストの言葉は、心から嬉しかった。望外の誉め言葉として、受け取らせて頂き、客席に戻って演奏の開始を待ったのだった。

この日の演奏は、発売になったばかりのTwo Voicesの発売記念として企画されたものだ。だから、最初は高樹レイ=竹内直のふたりの交感から開始されると思っていたのだが、いきなりゲストの市川秀男も加わったフルメンバーによる演奏だ。
CDではふたりの自由奔放な音のやりとりが、聴き手をびっくりさせるものであったが、このオープニング「Afro Blue」の演奏は、より複雑な構造として迫ってきた。
わあ、こりゃすげえ、と思い同行者に「CDと聴き比べてみるといいよ。それぞれの良さを実感できるから」とアドヴァイスしたくらいだ。

次の「Everything Must Change」では、もうヴォーカリストのエネルギー全開で、市川秀男のリリカルなプレイ、竹内直の想像力豊かに発展していくサウンドに支えられて、気持ちよく歌っているのがビンビンと伝わってくる。
そんな演奏者の気持ちはすぐに客席にも伝播し、ホール全体が次第に熱くなって行くのである。ぼくはそんな演奏に身を浸しながら、ある詩人の言葉を思い出していた。

「詩とは見える言葉によって、見えない何ものかを洞察する行為である」

この日の演奏は、まさにそうした状態を音によって現出していた。ステージの上から投げかけられる「聴こえる音」を浴びているうちに、聴き手はみな「聴こえないなにものか」に揺さぶられ始めるのである。その共有こそが、音楽の、JAZZの醍醐味なのだ。

特筆すべきは、高樹レイを究極の自由な音で引っ張る竹内直の、底知れぬ音楽性の豊かさだ。(消えたレポートでも、バスクラ高温部の美しさについては書いたが、本当に驚くべき抒情がほとばしる〝世界一美しい″バスクラなのだ)リード奏者が直接的につかさどるのはメロディなのだが、彼の音楽の素晴らしさはその背後で躍動するリズム感覚にある、と言えるだろう。
だから、高樹レイの好む奇数拍子をより自然に包み込むのだ。

このふたりの作る音楽は第2部の数曲で、さらに明らかになる。ヴォーカルとサックスという最小限のサウンドは、そのサウンドが運んでくる意味以上の何かを内包していない限り、単にシンプルなDUOに過ぎない。ところが、この二人がステージ上で出す音は、次々に重層的な意味を導き出すのである。つまり、現実には鳴っていない音が聴き手に届けられ、その結果、聴き手は予期せぬところに運ばれることになる。やがて、客席にはスタート時とは全く違う熱気が充満し、音楽家とその作業を享受うる物の濃密なコミュニケーションが生まれる。

これぞ、音楽のマジックそのものなのである。